暴力の哲学 酒井隆史 河出文庫
そもそも何をもって「暴力」というのだろうか。
「反テロの戦い」がいまや世界各地で行われているが、ロシアのシリア空爆だとか、トルコのエルドワンによるクルドに対する「反テロ」の戦いは、要するに片方が暴力だが、それに対する勢力が行使しているのは暴力ではない、という論拠は一体どこにあるのか―――？
ガンジーや、キングによる非暴力主義とは、暴力を振るわれても単に無気力に「無抵抗」を貫くという意味ではなかったし、そもそも歴史的な革命のほとんどが、暴力的手段によって成し遂げられ、その革命によって確立された国家権力は、その後、暴力装置としての統治の機能をいかんなく発揮し、又、いつの日か「暴対暴」によって次の権力と入れ替わってきた。
本書は2004年に初出され「暴力」に関する思想、哲学の書として評価の高かった一冊の再版だが、暴力に関する様々な思想家たちの思考の変遷、実際の歴史的な事件、出来事に基づいた「暴力に対する人々の考え方の諸相」などを掲げての考察は、中々興味深い。
「暴力はよくない」「暴力は止めよう」というテーゼに反対する者は皆無であり、これらの反語である「暴力は良い」「暴力はどんどんやれ」という言葉は成り立ちえないというのが現実である以上は、「暴力はよくない」というテーゼを是認するしかないというのが現状ではあるが、上記のような問題をあらためて問われると、これらのテーゼが浅薄でありあまり意味をなさない言葉に聞こえてくるし、むしろ何だか戯言にも聞こえてしまう。
「反テロの戦い」やら「平和の為の戦い」といった自家撞着をどう考えるべきなのか―――何とも面白い問題提起だ。
（16年1月発行）