哲学な日々 野矢茂樹 講談社
哲学に一般の人が余りなじみないのはなぜだろう。
本書の中で著者は、大学の哲学研究者同士の会話ではよく、「どなたをおやりですか」と尋ね合うことがあるように、哲学とは例えばカントだとかヘーゲルといった過去の哲学者の哲学を研究することが、「哲学」であると考える風潮が根強くあり、一般の人々が自然に考えて疑問に思っている哲学的課題、例えば「我々はどこからきたのか、我々は何者か、我々はどこへいくのか」（ゴーギャン）といった疑問を自らの頭で考える---という学問になっていないことが、多くの人の哲学への興味を呼び起こさない理由ではないかという。
著者が強く勧めるのは、そういった哲学的な疑問について、過去の思想家の思索の過程を参照、研究するばかりではなく、自分自身が「思考する」という行為だ。
世界に風穴を開けたのが、著者が学生時代に教えを受けた哲学者の大森荘蔵だったという。
著者は師である大森惣藏が説いたように、哲学の醍醐味とは、まさに自分自身が持つ哲学的な疑問の答えを「ちっぽけでも自分の頭で考えることにある」という。その明確な答えに至らずとも、思考の過程でえる刺激こそがまさに「哲学することの意味、楽しさ」だというのだ。
この著者の思考の過程やそれなりの結論をエッセイ風にまとめた本書が、決して著者自身の自己満足で終わらず、文章の分かり易さも手伝って、読者にも理解しやすく、それゆえに共感を呼ぶという本書を読むことによって哲学に興味を持つ人が増えるかもしれない。
以前著者の「無限論の教室」という面白い一冊を読んだことがあるが、哲学という中々とっつき難い問題を分かり易く説いてくれ面白かったことを思いだした。
著者の他の著作ももう少し読んでみようと思う。
（15年10月発行）