ムハンマド カレン・アームストロング 国書刊行会
テロといえば最近ではイスラーム過激派によるものが世界中をゆるがしていることもあって、「イスラーム＝テロ」のイメージがあり、ましてイスラームに全くといってなじみのない我々日本人は、ムハンマドの説いたイスラーム教は、欠陥だらけの宗教、思想である、といった先入観に陥りがちだが、決して長くはないがエジプトというイスラーム圏に二年以上暮らし、イスラームに多少なりとも接したことのある自分の経験からいえば、本来のイスラームは実は極めて平和的な宗教であり、異なる思想や宗教に対しても宥和的な側面が強いのに―――なぜ？ という思いがしてしょうがない。
カソリック修道女であったという異色の経歴を持つイスラーム研究家である著者によるムハンマドがイスラームを説くにいたった軌跡の解説は、今あらためて本来、イスラームとはいかなる宗教であるかを我々に丁寧に解説してくれており大いに参考になる。
本書の第１章、マッカの有能な商人として妻ハディージャとともに穏やかに暮らしていたムハンマドが神の啓示を受けるに至った経緯、そして第２章、彼が既存の勢力から受けた様々な迫害に対して、ヒルム（堪忍）をもって行動するように促した忍従の歴史、第3章はそれらの迫害を避けて、ムハンマドが信者とともにマディーナへ移住したいわゆる「ヒジュラ」について、さらには第４章では、いよいよジハード（聖戦）といされるイスラーム改革の経緯、そして最終の第5章ではジハードに勝利して以降の、ムハンマドによる、現代にいたるイスラーム社会の構築に過程が語られている。
いささか「イスラーム贔屓」気味な感じに受け取れる部分もなきにしもあらずだが、イスラームが、その初期より実は、ムハンマドによって確立された平和と調和を尊重する宗教であり文化的社会であることが良くわかる一冊だ。
（16年1月発行）