「罪と罰」を読まない 岸本佐和子他 文芸春秋
夏目漱石の「坊ちゃん」を読んだことがない、という作家は極めてまれであろう。
しかし、「源氏物語」という日本の代表古典文学となるとむしろ「読んだことがある」と答える作家は、その「源氏物語」が1000年前の古典であること、しかもやたらと「長い」ことを考えると、決して多くはないかもしれない。
世界文学に於ける不朽の名作といわれるドストエフスキーの「罪と罰」にしても、同じドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に比べれば短いものの、その強烈な内容の濃さ、重さと、長さ（何しろ長い！）からすれば、途中で投げ出す人も多いだろうし、最初から挑戦しない人も多いかもしれない。
岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美の作家、翻訳家、ブックデザイナーの4人も、実は「罪と罰」を読んだことがないという。
そんな4人が集まって、様々な聞きかじりの情報をもとに「読んだことがない本の読書会」をするという、ちょっとユーモラスな試みの様子を納めたのが本書だ。
「罪と罰」に関するそれぞれが持つ断片的な情報（たとえば、ラスコーなんとかがおばあさんを殺す話じゃなかったっけ―――といった）を寄せ集め、4人が様々な登場人物の性格を妄想、筋を類推する－――といった「遊び」は、実際に「罪と罰」を読んだことのない人ばかりではなく、読んだことがある読者にも（ちなみにタカさんは何度か読んだことがある）実に興味深く、最終回の読書会前には4人が実際に「罪と罰」を読了してからあらためて開かれた読書会というのも面白い試みだ。（皆が「あそこは大体当たっていた――」などと感想をのべているのが実に面白い）
あらためてもう一度「罪と罰」を読み直してみようかなぁ〜とも思った。
（15年12月発行）