人工知能は人間を超えるのか 松尾豊 角川書店
鉄腕アトムのマンガが描いたような「人間のような」人工知能を実現させるべく今まで3回の人工知能ブームが巻き起こったという。
本書ではその3回のブームに言及、いままでの２回のブームがなぜ挫折し、その後、人工知能冬の時代を生んでしまったかを丁寧に解説している。
60年代～70年代前半の第一次ブームでは、探索の高度化によってパズルを解いたりする人工知能が開発されたものの、ルールの決まっている定型の問題しか扱えないという欠陥が、現実への臨機応変な適用には向かないことが認識され、大きな失望を招いたことで大きな期待に対する失望から長い冬の時代にはいってしまった。
80年代後半～90年代前半の第二次ブームでは、膨大な知識を詰め込めるだけ詰め込むという物量作戦によって、平易な対話や、病気の診断などは行えるようにはなったものの、「人間並の知識」というもののレベルの高さが単なる知識量の膨大さでは到達できないことが認識されるようになり、再び冬の時代に突入してしまった。
そして今回の第三次ブームだが、この第三次ブームは機械学習（ディープラーニング）によって学習データから機械自身が、適切な知識を学びとってくる―――ことによって急激に進化しており、数々の問題点はあるものの、日本トップクラスのAI開拓者である著者によれば、展望は明るいという。
全体的には希望的な論調で書かれた本書だが、それでも、AIが人間の全ての能力を凌駕し、いずれは人間がAIの奴隷になってしまう―――という巷間言われるAI恐怖論については否定的だ。
人類が鳥の真似ではなく、揚力を利用することによって飛行を実現したように、AIも人の真似ではない新たな地平での知能を得て人類がそれを利用していくことが十分可能だという未来像にはちょっと救われる気がした。
（15年3月発行）