クレオパトラ ステイシー・シフ 早川書房
世界三大美女といえばまず上がるのがエジプトの女王クレオパトラだ。（残りの２人は楊貴妃とトロイのヘレン《日本では小野小町》）
ある意味、クレオパトラの名前を知らぬ人はいないといってよいほどの著名人でありながら、2000年以上前に生きたこの女性の史実を我々はあまりよくしってはいない。
精々、エリザベス・テーラ―が演じた映画「クレオパトラ」で知っているような、プトレマイオス朝最後のファラオとしてローマの権力者、カエサル、アントニウスをその妖艶さで虜にした稀代の妖女としての悪名で知っているような気分になっているだけである。
本書では彼女を滅びつつあったエジプト王朝を最後まで支えた女帝として描き、当時のエジプトとローマの関係、そしてローマ帝国内でうずまく陰謀と戦闘による権力争いの史実をダイナミックに描くという実にスケールと深みを持った歴史研究書であり、なるほどクレオパトラとはこういう女性だったのか―――と知ることのできる傑作といってよい一冊だ。
クレオパトラはパスカルに「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」と言わしめたほどの美女としてしられているが、もちろんパスカルは彼女の実物はもちろん絵画でさえみたことはなく、パスカルのみならずクレオパトラが本当に美女だったかどうかは、その実像を描いたものは何も残っておらず、おそらく唯一と思われるのが彼女の顔が浮き彫りになっているコインのみだが、それをみても果たして本当に美人だったのかどうかは断定できないという本書に書かれた事実こそが、世界一の美女といわれる彼女の顔を人々に強く印象付けた原因なのかもしれない。
なにせ2000年以上前（日本の歴史ではここまで古くなると文献など全くと言ってよいほどない）の女帝の行状を残しているエジプト文明も凄いが、それらの資料を丹念に読みこんでクレオパトラという女性をここまでいきいきとえがいた著者も凄いと思った。
（11年12月発行）