心はすべて数学である 津田一郎 文芸春秋
「神の言葉は数学で書かれている」と言ったのはガリレオ・ガリレイである。
確かに星の運行 軌道にせよアインシュタインのあの有名な式（Ｅ＝Ｍ・Ｃ２）にせよ数式で示されてこそすんなりと理解することができる。
それでは、生命の起源だとか、DNAの遺伝情報がどのようにして個体の個性を形作るのか―――といった問いに対してすら数学が答えうる（なにかシンプルな数式で表せる？）のだろうか―――。
それでは、逆に数学とは宇宙始まって以来、人類がいるずっと以前から厳然として存在する何か根源的なものなのだろうか―――。
そういった問題になると、数学そのものがあたかも哲学問題、宗教問題であるかのようにも聞こえてくる。
本書の著者の答えは又、極めてユニークなものだ。
まず著者は、「心」とは何か？という問いに答えうるのは、脳科学のみでは不十分であり、数学的な見方が必要だという。しかし、その主張はかならずしも「心」が数式で表せるという意味ではなく、「心」は、脳科学によって得られたデータを抽象化すること（抽象に転換すること）によって理解しうるのではないかという意味だ。
情緒と対極にあるかのようにとらえられることの多い数学的世界を、むしろ情緒的な感覚と呼ぶべき抽象的な世界と同一であると主張する著者は、なにか禅問答を問いかけているかのようにさえ取れなくもないが－－－。
なぜか、あの摩訶不思議な「数学の世界」をあらためて思い浮かべる時、「心はすべて数学である」というタイトルが魅力的に思えてくる。
読了後ももう一度読み返してみたくなる一冊である。
（15年12月発行）