血の絆 ジャーネ―ジョー・マレー 毎日新聞社
ミャンマーでの対日感情は東南アジアの中でも良い方だというが、戦争時における日本軍の東南アジア占領などの行状から考えればいささか不可解な気もしたのだが、親日感情の理由の一つが、ミャンマーでは読んだことがないという人が少ないというほどのベストセラーとなったこの小説だというので図書館で借りて読んでみた。
ストーリーは太平洋戦争時に、ビルマ派遣された日本人将校が現地のビルマ女性と結婚をして男の子が生まれたが、敗戦によってこの将校は捕虜になり妻と男の子を残して日本に帰国せざるを得なくなったが、この将校は日本での死に際に、先妻との間に生まれた娘にこの男の子のことを伝え、その子の消息を探すように依頼する。
父の遺言を託された主人公の娘は、日本でビルマ語を学び、日本語教師となってビルマに赴き、母にも先立たれ、侵略者日本軍の子供としてつらい境遇で育った弟との再会を計ろうとするのだが―――。
母は日本人に無理やり乱暴されて自分が生まれたと思い、父と日本人を憎んでいた弟と、この姉との再会、そして和解という、いささか作られ過ぎの感もあるストーリーだが、結果的にこういった物語だからこそ大衆受けし、それが結果的にはビルマ（ミャンマー）人の対日感情の緩和につながったというのだから、作者には感謝すべきなのだろう。
もちろん、作者自身が敗戦後の日本を訪れ、広島などの惨状を見て、日本人も庶民は戦争の犠牲者であることを知りこの小説を書くことを構想したというから、偶然の創作という訳ではないらしいと知ってちょっと安心したけれど―――。
（78年9月発行）