モモ ミヒャエル・エンデ 岩波書店
「童話」というジャンルは基本的には子供向けの「お話」といったものととらえられているが、「メルヘン」というとなんだかもう少し別の「詩的な物語」とか「大人も楽しめる夢物語」的なニュアンスを感じてしまう。
童話の形をとりながら完全に大人向け（もちろん子供も楽しめるが）の詩的寓話といった広い趣きをもつもの（「星の王子さま」のような）あるいは幻想的なファンタジー的なもの（「オズの魔法使い」や「アリスの不思議な国」のような）もあるが、ミヒャエル・エンデのこの物語にはそういった「童話」のもつこのジャンルの面白さが込められているように思えたし、それに加えてスリリングな冒険小説的な要素まである。
どこの国のどこの町とも思えないある町（イタリアの町のような感じがあると思ったが）の古代の円形劇場の廃墟に一人住み着いた少女モモは、もじゃもじゃ頭で粗末な身なりをした不思議な少女だ。
その円形劇場に来た大人も子供も、モモが黙って話を聞いてくれるだけで皆、心が解きほぐされ、持っていたどんな悩みも不思議に解消してしまうのだった。
そんなモモの回りには、いつもたくさんの大人や子どもたちが集まってゆったりとした時間が流れていたのだが---しかし人々に人間が「時間」を無駄に過ごすことの愚かさを説き、時間を節約させることを説得して世界中の余分な「時間」を人から奪って独占しようとする「灰色の男たち」が出現すると、その灰色の男たちに説得された、町じゅうの人々は豊かでゆとりのある生活を次第に失っていき、余裕のない常に時間に追われる生活を送るようになりモモの回りから去っていく―――。
さてここから物語は、時間どろぼうである「灰色の男たち」とモモの対決、という「童話」としてはちょっと異例なスリリングな展開となって行く―――。そのスリリングさは、ページを追うごとに増していき、ページをめくるのさえもどかしい展開になっていくのだから、たかが「童話」と思って手にとった身としては実に驚きだった―――。
そして物語を読了すると、我々現代人が実はいかに時間に追われ合理性だけを追及しつづけていることで失いつつあるもの―――エンデが言おうとしたのは「心」だと思うが---にあらためて気付き、なんだか心をあらため、心のゆとりをもった自然の中にいきる人間らしさを取り戻さなければ-―――という気持ちになって来る。
すなわち、読者は童話、や寓話が持つ一つの特長である「たとえ話による教訓」という術中にしっかりとはまってしまった訳だが---。
いくつになっても遅すぎるということはない、忙しさにかまけ夢や空想にふける時間を忘れてしまいがちな自分に夢見ることの大切さを教えてくれ心洗われる一冊といってよい。
（05年6月発行）