はじめての法華経 杉谷義純 春秋社
戸津説法は、琵琶湖畔の「戸津の浜」にある東南寺において毎年行われる法華経についての説法のことだが、そのはじまりは天台宗の宗祖伝教大師(最澄)が、両親の追福のため里の人々を集めて行った天台宗の基本経文である法華経の説法である。
織田信長の比叡山焼き討ちなどの一時期途絶えたことはあるものの、最澄が日本で天台宗を開いて以来1200年余りに亘って毎年全天台宗の中から選ばれたたった一人の僧侶が行っているが、平成27年のこの戸津説法の講師に選ばれたのが本書の著者、上野寛永寺の大僧正、杉谷義純師である。
五日間に亘って行われた杉谷師のこの戸津説法を納めたのが本書である。
法華経自身、釈尊が自らの教えを学僧などの修行者などだけではなく、一般民衆に対してその教えを分かり易く説いた経であり、それをその釈尊の意思に従って天台宗の高僧が民衆に説く、というものだけに仏教の教えの真髄に触れながらも、分かり易く説くこの説法は、我々一般の仏教徒以外の者にも、仏教、特に天台宗の教えを知る上ではなかなか参考になるものといえる。
法華経は大部に亘るが、その全体的な構成は緻密に各論分けされていて、ある意味全体的な論理建てを（その全体像）学ぶ（捉える）ことができれば、釈尊が重んじた仏法の真髄は何か、そして釈尊は後世に、なにを伝えようとしたかの概要はつかめる仕組みになっている。
天台といえばやはり密教的な要素の強い教えでありこの法華経の中身の多くは釈尊による神通力的な部分に触れている部分が多いなど、仏教を哲学的観点から学ぼうと思うものにとっては、いささかオカルト的過ぎる（それがすなわち宗教の重要な要素であるが）ように思える部分も多いが―――天台の教えの全体像を知ろうと思うならこの一冊は結構近道になるのではないかと思う。
（15年11月発行）