室町人の精神 櫻井秀治 講談社
源平の時代から鎌倉時代に関する歴史はそれなりに色々と取り上げられるし、それから跳んで戦国時代ともなればそれこそ歴史ファンならば結構知った気になっている時代だが、考えてみるとこれらの時代にはさまれた室町時代となると歴史上の人物として正確に名前を覚えている人物も多くはないし、せいぜい金閣寺やら銀閣寺、あるいは能などの伝統芸能などで記憶している位―――という気がするのは考えてみると不思議な気がする。
そういう意味では、本書で取り上げた室町人のメンタル、などというテーマになるとある意味では「コロンブスの卵」的に実に興味深い分野という気がする。
今の日本に生きる我々のメンタル、あるいは人間関係の底流に流れる人情や常識、といったものが今から700年程前の我々の祖先がもっていたそれとどこが同じで、どこが違うのか―――といったテーマへの興味は尽きないのも当然かもしれないが---。
室町時代の人々が、ネチネチといつまでも恨みを忘れず、報復の機会を常に虎視眈々と狙うところがある一方では、あるところではあっさりと諦めて切り替えのきく人々であったことだとか、自分達で決めたことで後々責任を問われることを怖れるあまり、例えば、くじ引きにで将軍職の後継者選んだこととか、コネと賄賂がはびこりなにかというと訴訟沙汰に及ぶという「潔さ」とは縁遠いメンタルの持ち主だったという室町人―――などというところを読むと、なんだかんだいいながら、まさに現代の日本人のいやらしさの部分とそっくりという気がしてくる。
意外と多く残されている当時の文書を実に丹念に調べて、余り知られていないこの時代の日本人のメンタルと社会通念といったものを再現した著者の研究は、ユニークで実に面白い。
（01年10月発行）