中島らも短編小説コレクション 中島らも 筑摩書房
自らのアルコール依存症の幻覚から生まれたのではないかとすら思えるような、破天荒である種天才的な発想に基づく作品を遺した中島らもが、飲酒によって階段から落下し負った脳挫傷がもとで亡くなってから早くも12年、あの破滅型の彼のマルチな分野での活躍は、今も隠れた人気を誇っている。
本書はそんな中島らもの死後発見された短編2作品を含む短編集だが、いずれの作品もその規格外の発想力の豊かさにあらためて感心させられる。
未発表作品の一つ「美しい手」は、ごく短い短編であると同時に、ある意味「美しい詩」という趣が強烈だ。
その他の作品もそれぞれが極めて個性的なもので、ユーモア、ギャグ、叙情的なもの、シュールな幻想小説的なものなどなど、この人の文才のほとばしりの無限さには舌を巻く。
これだけの才に恵まれ、何をやっても評価を得る、という立場の自由さからこそ、彼がアルコールや薬物といったものに溺れてしまった原因があるとすれば―――それこそ才能を持つことの残酷さということを思わざるを得ないのだが---。
（16年3月発行）