キリスト教と戦争 石川明人 中公新書
ニーチェの「神が人間を創ったのではない、人間が神を創ったのだ」という言葉ではないけれど、所詮、不完全な人間が作ったのが宗教だとすれば、世界最大の宗教であるキリスト教もまた、矛盾に満ちた整合性のとれない宗教である、のは当然といえるのかもしれない。
その聖典である聖書ですらユダヤ教の聖典旧約聖書と、イエスの言葉といわれる新約聖書を繋ぎ合わせたものだから、あの兄弟の殺し合いだの生贄だのとやたらと暴力に溢れた神と「右の頬を打たれたら、左の頬をだしなさい」という無条件非暴力主義とを無理やりつなぎ合わせた矛盾を今に至るまで全く解消できていない。
解消できていないどころかその相矛盾した部分を、全て「全能の神」の名の下にあたかも矛盾がないかのように無理な教義解釈を続けてきたことが、砂上の楼閣の上にさらに砂上の楼閣を築くようなことになっているのではないだろうか。
本書で取り上げているのは、まさにそういったキリスト教の矛盾の際たるもの、「なぜあの平和の宗教と言われるキリスト教が、歴史的にもあれほど暴力を続けてきたのか―――」という点だ。
著者自身がキリスト者であるそうで、その考察は中々詳細で学究的なものではある一方、どうしても信者としての「ひいき目」なところが随所に感じられ、キリスト者でない自分にとってはなんだか、結構苦しい「いい訳」のように受け取られてしまいがちだ。
娘達を銃の乱射によって殺されたアーミッシュの人々が、その殺人犯を許しその殺人犯の遺族にも寄り添って過ごしたという近年のアメリカでの事件に、他のキリスト教徒たちが驚愕したように、犯罪に対する正当防衛の暴力をむしろ人間としての神に対する義務であると考える現代キリスト教の教えに生きる人々との違いは、実に大きい。
尚、日本のキリスト教協会が、歴史的なこういった「キリスト教と暴力」という問題に目をつむり、むしろ政治的過ぎる形で「平和主義」を唱える矛盾に著者が言及しているところなどをみると、キリスト教といっても信者一人一人が実におもいおもいの教義をもっているように見えて、おかしかった。
（16年1月発行）