親鸞 末木文美士 ミネルヴァ書房
親鸞に興味を持った最初は高校時代に倉田百三の「出家とその弟子」を読んだ時だ。
プラトニックないわゆる「純愛」にあこがれる高校生にとっていずれ愛する人と結婚をして肉体関係を持つ―――という両極を今後、どうやって整合性をつけて行くのだろう―――と思っていた時に、あの「出家とその弟子」の中で恋に悩む唯円に対して師が語る言葉が何だか随分と救いになったし、親鸞自身が当時の仏教界では禁じられていた肉食妻帯に踏み切ったという事実を知ったからだ。
今は当たり前の出家者の妻帯等ということに踏み切ったのだから、よく考えてみれば当時、親鸞とはとんでもない破戒僧でもあるし、まあなによりも仏教界の大革命者であったのだろうが、それでいて僧職であることも辞めず、同時に仏教を信奉する道も捨てない―――というのだから思考構造はいったいどうなっているのか－－－と思ったし、本書を手にとったのも、そういう意味を含めて日本仏教の大革命者であり、今に至るも多くの人々が理解しえない面をもった親鸞という人物に尽きぬ興味があるからだ。
本書ではそんな親鸞の思想にある密教性と女犯偈の間の整合性の問題、今も尽きぬ論争の的となっている「悪人正機」や「他力本願」の親鸞的な意味（それも又、親鸞自身の中で変遷がある）と、彼の激しい謗法に対する姿勢（そもそも正法がはっきりしていないと、何が謗法なのかも分からなくなる）等々、親鸞を取り巻く数多くの論点に言及していて実に興味深い。
尚、「他力本願」の思想と、東北大震災における浄土真宗によるボランティアの関係に矛盾はないのか―――といった極めて今日的な論点にもふれており、親鸞が今尚、現代日本に生きる我々に様々な疑問をなげかけていることをあらためて思わされた。
（16年3月発行）