本当の夜をさがして ポール・ボガード 白揚社
宇宙から地球をみた写真からは地球上の夜の部分がまさに光に溢れていることがみてとれる。
そのことは逆に今や我々は古代の（少なくとも照明が発達する以前の）人々がみていたような星空を地上からみることはできない―――できるとしても極めて特殊な限られた場所でしかない―――ということである。
もちろん、照明が発達することで人類が得た利便性は多大だ。いまさら、原始の時代に戻ることなど不可能ではあるものの、その一方、人類が証明によって失ったものは多い。
それは、まず「昼動いて、夜は休む」という太古の時代から人類がつづけてきた生物としての生理的な習慣の破壊であり、そのことが我々の健康や寿命にどのように影響しているかは今のところ不明だ。（人類史数百万年の習性をわずか200年余りの間に変えてしまって、なにも健康に関係はない―――とは考えにくい）
本書で著者はこれらの光による様々な害について言及しているが、著者は照明そのものを全否定している訳ではなく、特に強く説くのは、際限なく明るさを求める我々の要求についてであり、不必要な明るさがいかに「夜」を害し、人々の生活を蝕んでいるかという点だ。
光輝く街が美しいということを否定している訳ではなく、一方的に「降るような星空」の美しさをロマンティストとして追及している訳でもない、著者のスタンスには大いに共感する。
本書の中で著者の友人の義母がクリーブランドから友人宅を訪れた際に「あの空にあるぶつぶつは一体何なの？」と尋ね、妻が「お母さん、あれは星よ」と答えた、というエピソードがあったが、生まれた時から都会育ちのいまの多くの子供たちは、多分天の川をみたことはないだろうし、北斗七星や北極星でさえ教科書でしか知らないのではないだろうか―――と思う時、やはり光害についてあらためて考えさせられる。。
やっぱり、失われた星空を取り戻す方法がないものか―――と星空の美しさを幼き頃にいつも見ていた（といっても100年、200年前の星空の美しさとはくらべものにならないのだろうが）タカさんもつくづく思う。
（16年4月発行）