漂流の島 高橋大輔 草思社
吉村昭の実録小説「漂流」の主人公長州の船乗り長平が13年に及ぶ漂流島生活を送り、あるいはジョン万次郎も同じく漂流してこの島にたどり着いたことなどで知られている伊豆諸島の鳥島は、海流の関係によって日本近海で漂流した船が流れ着く島として知られている。
無人の絶海の孤島である鳥島には泉もなく食糧になるものといえば当時島に来て子育てをしていたアホウドリだけ―――しかもそのアホウドリがいるのも半年だけという人が住むにはあまりにも過酷な島であったが、その太平洋上の位置が、漂流船が流れ着き易いところに位置しているという事情もあって長州の長平をはじめとする多くの漂流者が流れ着き、中にはジョン万次郎や長平のように帰還を果たした者も少なくない。
そういう意味では、この島は「漂流」という題材にとってはまたとない絶好の場所ということもできるしまだが、明治以降の一時期、アホウドリの羽毛をもとめて入植者が入った時期もあるが火山島の噴火爆発によって村民全員が死滅し、日本軍や気象庁の側溝施設があった時期もあるものの全て火山噴火によって撤退を余儀なくされるなどした為に、今はアホウドリの保護、調査のための上陸が年数名に許されるだけで「訪ねたくても訪ねることの出来ない島」となっている。
本書の著者は、小説「ロビンソン・クルーソー漂流記」のモデルとなった島の探検記に刺激され、「あの長州の長平たちの島」を訪ねて彼等漂流民の足跡をたどりたいとこの島への渡航を申請し続けてきた。彼がこの島を訪れることができたのはたった一回の短い期間だけであり、それ以降は毎回不許可になり続けているが（アホウドリ保護目的以外では、環境省は頑なに同島上陸に許可を出さない）、その鳥島とここに流れ着いた漂流民たちの足跡をたどりたいという思いは強く、様々な資料、あるいは過去にこの島を訪れた人々に合い、あるいはその記録を読みこむことで探った鳥島漂流者たちの足跡は、実に興味深いものであり、なんだか「歴史ミステリー」の解読というリアルな迫力に満ちている。
（16年5月発行）