井伏先生の書斎 藤谷千恵子 求龍堂
1993年に95歳という高齢で亡くなった作家井伏鱒二は、太宰治や開高健が慕っていたことでもよく知られている大作家といってよい人物で、その代表作「山椒魚」や「黒い雨」は今も読み継がれているが、若い頃は画家を目指し試作に励み、60歳を過ぎてからも約6年間画塾に通い続け画を描いていたという。
本書はそんな画学を志していた大作家に師事していた著者が、井伏鱒二という作家が一生追い求めていた画への憧れという面から回想したエッセーである。
井伏鱒二が、書斎にどのような画を飾っていたか、そして折々にどのような画をえがいていたか、あるいは旅先でどのような画を描こうと試みていたか、といった点に的を絞っての井伏鱒二という画をこよなく愛した作家の人となりとその感性を浮き彫りにしようとするもので、著者の井伏鱒二に対する敬慕のこまやかな息遣いが聞こえる美しい随筆集となっている。
（14年2月発行）