シャープ「企業敗戦」の深層 中田行彦 イーストプレス
シャープが台湾の鴻海傘下となったことを必ずしも「没落」ととるべきではないのかもしれないが、ほんの少し前日本の誇る巨艦でもあったシャープの海外資本の軍門入りという事実は、「日本人」という立場からみるとやはり寂しい限りではある。
一体、何がどうなればあれほど優良だといわれた企業がこんなに短時日の間に、ここまでの「没落」を見せてしまったのか―――。興味をもっていただけに本書を手にとってみた次第。やはりそこには経営者の大きな判断ミスが重なった―――というどこの企業の衰退にも見られる要因があった。いかなる巨艦といえどもそのリーダーの怠慢なりミスといったことが重なればあっというまに沈没という事態にも陥りかねないということなのだろう。
著者はシャープに33年間勤務した技術者であり、このシャープ没落を当事者として見守った立場であるだけに、本書では、いささか身贔屓的にその没落の分析において「やむを得なかった」といった分析もかなりあるものの、全体的な分析はかなり中立的でもありあるていどシャープ敗戦の理由には納得がいくところが多い。
本書に書かれたシャープ没落の原因の多くは、日本の多くの企業にも共通する部分があり、特に著者のいう｢第１の敗戦の原因｣である、片山元社長が犯した堺工場への「過剰な投資戦略」、そして高橋社長時代の｢第２の敗戦｣、すなわち中国スマホでの｢変化への対応｣の遅れ、という部分は時代遅れの大艦巨砲主義に基づいての「大和」「武蔵」への巨額投資、そして空中戦対応に遅れたあの日本軍の大敗因以来伝統的につづく、日本の組織の問題点が今も尚、いたるところで繰り返されていることを感じた。
（16年1月発行）