神は本当に存在するのですか？ 佐藤優・竹内久美子 文芸春秋
リチャード・ドーキンスの著作（参照「進化の存在証明」他）はかなり読んできているが、その過激なまでの無神論、反宗教主義 そしてダーウィニストぶりが、まったく非論理的でしかない宗教論に比べて胸がすくほどに明快であり、又容赦がないところが好きだ。
そんなドーキンスの日本におけるフリークと言うべき存在が本書の対談者の一人竹内久美子であるが（参照：「女は男の指を見る」他）、容赦のないドーキンスの徹底して論理的かつ宗教との妥協の無さに比べると竹内のそれは、いささか論理手順を欠いた妄信的な感じがぬぐえず、竹内批判派からは「トンデモ科学」「似非科学」などといった批判を受けがちだ。
神学部出身で、一時は外務省のラスプーチンなどともいわれていた佐藤優は、その多くの著作が極めて論理的であると思われており、その外交分析などではその論理性は緻密であるとも評されるが、この人が宗教擁護の立場にたって竹内と神の存在や科学について語るというのだから確かに異例の対談とはいえる。
ただ結論からいえば、世界中で戦われているある意味、予定調和的な「宗教対科学」の論戦同様に、この対談も終始、宗教の問題、神の問題は、あくまでもそれぞれ個人がどう考えるかの問題なのだ―――というかなり詐術的な佐藤の論法に、今一つ、いや二つ以上ドーキンスにはなり切れない（まあ、単なるドーキンスファンの一人に過ぎないのだろう）竹内が上手く丸め込まれてしまった感が強く、本書のタイトルにひかれて読み始めた読者の多くは、余りにどっちつかずの結論に、八百長試合に騙されたかのようながっかり感を抱くのではないだろうか。
宗教を強く非難するドーキンスに対してローマ法王側は、「進化論を認める」という「大人の対応」で答え、あたかも「やっぱり、反宗教論より宗教の方がふところが広いねぇ〜」なんていう評価がなされているように、佐藤の詐術的論理に引っ込んでしまった竹内の未熟さ―――というのがやっぱり「宗教」の伝統の力なのだろうか。
（16年3月発行）