クオンタムユニバース 量子 B・コックス他 ディスカバー21
明日の天気を完璧に予想できないのは天気を決めるファクター（変数）が余りに多すぎてしかも余りに複雑に変化するからであり、宇宙誕生以来の全ての出来事すら瞬時に計算できる完全無欠ともいえるAI（人工知能）が完成する未来のいつかの時点では、完全なる天気予報も可能になるかもしれない---―デカルトいや仏教などがいう「因果律」（原因があって結果がある）という、我々の知性にとって極めて居心地のよいこの「因果律」に囚われて（？）いる我々にとってはこの「完全なるAIによる完全なる天気予報」の考えは耳にも心地よいが－－－量子力学がいうところの「事象は決定的（因果率的）に決まるのではなく、事象は確率的に決まる」というテーゼで使われる「確率」は、全く意味が違う。
「確率的にしか存在しない」等という言葉とその論理は、なんとも居心地が悪いのだ。
要するに量子論がいっているのは「世の中、原因があって法則があるから結果が出る」という我々の常識世界的理解が原子の内側ではなりたたず「例えば、波動関数という作用素があるから原因と結果が混ぜ合せになったような状態――例えば波であり粒子としての電子―――がある」といったことであり、このテーゼはなんとも居心地がわるく、「神は存在します！信じなさい！」といっている宗教のような非論理性を感じてしまっていたのだが――――。
しかし、この量子論が現代社会に於けるAIやら衛星通信といった最先端技術を成り立たせているし量子論なしでは現代の最先端物理学はなりたたない―――と聞くとすると、さすがに白旗を掲げて、量子論をあらためて勉強してみようという気になる。（ならざるを得ない）
理屈はともかく、実際そうなっているのだから認めなさい！といわれても因果律理論に馴染み過ぎた身には尚認めがたいところがあるのだ。
この読書欄においても量子力学関連の書籍は数十冊取り上げてきたけれども、正直言っていまも量子論の概念すら、完全に理解できたとは言い難いのだが（ファインマンの「もしも量子力学を理解できたと思ったならば―――それは量子力学を理解できていない証拠だ」という言葉が救いではあるが）本書では、いままでの数十冊に比べると随分と理解へと進めたような気がする。
例えば。海水という「モノ」を論ずる理論をどう使ってみてもその海水が起こす波という「状態」を記述することができないのと―――モノを記述する一般相対性理論と、モノの基本構成要素である素粒子のふるまいを記述する量子力学の「親和性がよくない」のは確かに当たり前といわれれば、そうかもしれない－－－位の認識は本書でもてるようになった気がする。
まあ、一歩前進といえるのかもしれないが。
（16年6月発行）