熱狂する「神の国」アメリカ 松本佐保 文芸春秋
人質の首を刎ねて「アラー アクバル」（アラーは偉大なり）と叫び自分たちが天国に行けると信じているイスラム国の連中をみればイスラムの狂信の余りの野蛮さと一体どういう物の考え方をしたらこれほど非常識な言動が出てくるのかと思い、イスラム教原理主義の狂信に身ぶるいしてしまうが、なあに、こんな狂信はなにもイスラムに限ったものではない。オーム真理教だってサリンを撒いて人を殺せば（ポアすれば）天国に行けると信じていたアホが集団を作っていた訳だし---。
ただ、こういった狂信者は全体に比べればほんの一握りに過ぎないと思えばまだ気がやすまるところはあるのだが---。
ところが、世界一の強国であるアメリカのキリスト教（カソリックにせよ、プロテスタントにせよ）の数は圧倒的で、彼等の狂信が深く政治にかかわりこれを動かしており、アメリカを動かすかれらの狂信が、ひいては世界を動かし日本に住む我々の日常にも少なからず影響（迷惑）を与えていることには、心底、恐怖感すら覚える。
世界は神が作ったという聖書の創世記を真実と信じているアメリカ人が過半数を越しているし、大統領候補の中にもたくさんいる（テッド・クルーズは予備選の演説でもそう叫んでいた）そういう候補でなければ勝ち上がっていけないし、妊娠中絶を行う婦人科医を殺しても「天国に行ける」と信じていて実行してしまうアホがいまでもいるのだから、イスラム国と何も変わることがない。
そんな、アメリカに於けるキリスト教徒たちのメンタルと、彼等が与えるアメリカ政治への影響を細かく説いてくれるのが本書で、ありそうでいて中々ない、現代アメリカ宗教文化論の労作といってよいだろう。
なぜアメリカがイスラエルのガザの占領や、入植地拡大というアラブに対する侵略に対して支持の立場をとっているかも、本書によればプロテスタントの一派による聖書の記述に対する盲従という問題が根本理由になっているのだと知り、長年の疑問が解けたような気がする。
宗教はトータルでみれば人類にとっては害しか及ぼしてこなかったのではないかという思いはあったが、本書をみると未来においても宗教は人類にとっては、最大の厄災になりかねないのではないかという思いにかられる。
（16年6月発行）