戦争責任は何処に誰にあるのか 山本七平 さくら舎
山本七平が亡くなったってから既に25年、自らも一将校として参戦、ルソン島で捕虜として捕らえられるなどの戦争経験も交えての山本の「戦争考」は、なぜ日本はあのような愚かな戦いに突き進んでしまったのか、なぜ負けたのか、等々の鋭い考察を含んでおり以後、多くの日本論、戦争論に大きな影響を与えていただけに、そういった鋭い「日本教」ともいわれた評論が利けなくなって寂しい気がしていた。（参照：「一下級将校のみた帝国陸軍」 「日本はなぜ敗れるのか」「洪思翊将軍の処刑」等）
彼の本は読んだことがなかったし、彼の忘れられた著作の一つが再出版でもされたのかと思い大急ぎで買い求めて読んでみた。
しかし、結論からいうとかなりのがっかり感というか騙された感を味わうようになってしまった。というのも、本書に収められた論考は、いずれも別々の機会、別々の時期に表題とはことなったタイトルで発表されたものであって、本書はそれを編集したものに過ぎないからだ。
すなわち、それぞれの章で山本が述べているのは、「戦争責任は何処に誰にあるのか」という主題をもって述べたものではなく、全く別のテーマに基づいて書いた論考を寄せ集めたに過ぎないのだ。本のタイトルにひかれて読み始めた読者はがっかりすることになるだろう。
勿論、一つ一つの論考（章）は、まさに山本の「日本教」を彷彿させる面白く、実のあるもので、本書のようなタイトルでなければ、それぞれに考えさせるものがあるのだが。
特に天皇の開戦時、戦時中、そして終戦における責任の問題について、山本は「天皇機関説」的に動こうとしていた天皇と、天皇自らが遵守しようとしていた憲法との関係を説くことで解説し、まさに「天皇なき天皇制思想」の淵源について論考をおこなっていて実に面白いとはいえるのだが。
（16年7月発行）