人類と科学の400万年史 L・ムロディナウ 河出書房新社
人間以外に「なぜ？」という疑問を感じる生物がいるだろうか。
知能が人間にもっとも近いといわれる類人猿などをみてもどうも「なぜ？」という疑問を感じましてや、その「なぜ？」を探求しようとしている生物はいないように思えてくる。
それでは人間は一体いつ頃からそういった疑問の答えをえるべく探求をはじめたのだろうか。
そんな問いに取り組んだのが本書であり、人類の歴史といわれるこの400万年に亘るいわゆる「科学史」を述べようというのが本書の試みだ。
科学史といえば、たとえばガリレオであり、あるいはニュートンといった偉大な科学者が今や常識ともいえるようになった人々が、それぞれ個々の科学知識の完成をいかにして成し遂げたのか―――といったいわゆる各論的な物語が一般的であるのに、本書の試みはいきなりそもそも人間がどうして科学的な探求心を持つにいたったのか、といった根本論に発しているところには大いに興味をそそられたしグイグイと読ませるところがある。
但し、大きく構えた構想はそのかなりの部分においては成功しているとはいえるものの、やはり後半の大半部分は様々な科学知見に至ったエピソード的な一般的な「科学史」になってしまうのはやはりこの紙幅では致し方ないのかもしれない。
人類が現代までの400万年という膨大な時間をかけて、また無限の繰り返しとさえ思えるような試行錯誤の下に到達している現代の最先端の科学知見は、量子論というある意味では神の領域とさえいえる未知に溢れた世界へと突入しており、今までの科学が「実験から導きだされた理論」あるいは「理論から想定され、実際に確認された事実」のいずれかであった「科学」が、「事象から導かれた理論だが、なぜか自然のふるまいと辻褄があっている―――しかし、なぜそうなっているかは―――分からない！」という人類にとってはどうにも居心地のわるい状況に陥っている。
人類が五感でとらえることの出来ない世界が、現実世界を支配している！としたら―――新たな科学の時代に突入している――ということのようだ。
（16年5月発行）