学術書の編集者 橘宗吾 慶應義塾大学出版会
著者は名古屋大学出版会といういわゆる学術出版社で編集者として長年にわたって活躍、数々の賞を受けている方だが、多くても1000部、すくなければ数百部といわれるいわゆる学術書の編集とはいったいどのような世界なのかという興味をそそる内容であり中々面白い一冊だ。
著者はまず、学術書編集の話題に入る前に、一般的にいわれる出版不況といわれる状況についてそれは必ずしも「日本人の読書離れ」を意味しているわけではないと出版人の一人として反論する。
著者は。出版点数、発行部数の減少傾向をもってしてあたかも出版業界に未来はないかの話になっているが、出版点数や発行部数の減少は多少あっても必ずしもこれが出版会にとって悪い話ばかりという訳ではないという。
出版点数の減少は、ある意味では今まで出版社が行ってきた利益重視のための書籍の粗製乱造が淘汰されつつある、という意味でもあり、電子書籍や紙以外の本という他のメディアが増えているからという二つの面があるからであり、学術書のような「紙の本」における質の高いジャンルは出版不況の影響は少ないという。（そうであれば、嬉しい限りだが）
何回かの講演の内容が収録されており、一部テーマがあまり関連性がなく異なる部分が多く気になるところもあるが、学術書の編集者という我々の知らない世界の「裏話」の部分は中々おもしろい。
特に、著者のような編集者が自らの興味をもとに、様々な分野の専門家に執筆を依頼し、その専門家のインスピレーションを刺激して原稿を手にいれても、それが著者のイメージと会わない場合、書き直しを要求したりあるいは出版を断念することもあるというくだりでは、学術書の編集者という立場は、専門家を使いこなすプロデューサーであり、ディレクターなのだということを知り、著者の編集者としての自負を感じた。」
（16年7月発行）