きみ去りしのち 重松清 文芸春秋
この「タカさんの読書日記」の中でも重松清の作品は十数冊取り上げているが、その理由は彼の小説の多くが、かなりシンプルな筋立てでありながら身近なテーマを扱っていること、しかも泣かせどころがよく考えられたところにあるような気がして、要するに気楽に読めてそれなりに満足感がもてるところにあるような気がする。
しかし、それはある意味では、ワンパターン感、すなわちマンネリ感を持ちやすいものであるし、あまりにも「作られた」感がある小説ということにもなる。
本書は久々に手にとった重松作品ではあるが、そういった重松作品的（？）要素のたっぷりと詰まった一冊だ。
再婚した妻との間に生まれた１歳の息子を突然亡くした主人公、関根は、息子を死なせてしまった後悔の念から中々立ち直れない。
そんな関根が鎮魂の気持ちをもちながら出た一人旅に、関根の前妻との間に生まれ不登校になっている16歳の娘・明日香が同道してくる。
そんな旅で出会う、様々な地で知る様々な人の死とその死によって残された人々との心の葛藤といったものを通じて、この小説が描いているのは「親しい人の死と、のこされたもののその死からの癒しをどうやって得るか」というテーマである。
10数年前に、自分の下を去っていった前妻は、幾度かの再婚に失敗し今はガンにおかされて死の淵にある。母がガンでこの世から去ろうという時、娘明日香は、徐々にその死に対する心構えを行い、実の父との心のふれあいを感じるようになっていく―――。
7章に亘って描かれる関根と明日香の旅は、日本中を駆け巡りそこで様々な死とその死の悲しみから癒されようとする人々の姿を描いていて、結論的にいえば、「いい小説」と読後満足感を得ることはまちがいないのだが---。
黄門様が毎週旅先で事件にあって、それを解決していってという「水戸黄門」の設定に笑ったに近い、中年男とその前妻の娘との余りにも頻繁過ぎるほどの旅、あるいは自分を捨てて去った前妻がガンに犯されて、最後には主人公夫妻に会いたいと言って来る―――といったいかにも作為っぽいストーリーは、よくよく考えてみるとやっぱり重松らしい作為を強く感じてしまい現実感を持ちにくく、もう一つ「感激」とはいかないように思う。
（10年2月発行）