コーヒーが冷めないうちに 川口俊和 サンマーク出版
過去に戻ることができたら、一体、いつに戻りたいと思うだろうか。
ある街の喫茶店「フニクリフニクラ」の片隅のあるテーブル席に座ると、目の前に置かれたコーヒーが冷めるまでの間、望んだ過去のある時点に戻れる―――という。ただし、この席に座って過去にもどれたとしても、どんなに努力しても現実を変えることはできない―――という前提があったら―――。
しかも、この過去に戻れる席にはさらにいくつかの「ややこしい」ルールがある。
すなわち：過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない、過去に戻れる席には先客（ユーレイ）がいてその席に座れるのは、その先客が席を立った時だけだ、過去に戻っても、席を立って移動する事はできない、過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ、というものだ。
そんなルールをものかわ、この席に座った4人に何がおこったか―――ユニークな設定でストーリー自身もおもしろかった。
特に、第一章のエリート女性が、自分から愛情を言葉で伝えられずにいるうちに男性から「大切な話がある」と呼びだされて「告白」を期待していたにも拘わらず「フニクリフニクラ」で突然別れを告げられ、彼は海外に去ってしまった―――どうしても吹っ切れないこの女性は、「過去は変えられない」ことは分かっていながら、もう一度あの日に戻って自分から男性に愛を告げようと考える-――この第1話、「恋人」は中々ストーリーや結末がよく考えられていると思った。
（15年12月発行）