無名人名語録 永六輔 講談社
今年7月に亡くなった著者だが、肩書的にいえば「上を向いて歩こう」などの膨大な曲数におよぶ詞を書いた作詞家ということになるのだろうか。
しかし、我々が知っている彼はむしろテレビ創世記からのあるいは長寿番組といわれたラジオ番組でのMCといったマスコミ界での活躍であり、タレントのはしりとしてではないだろうか。
そういった、多彩な活躍は、色々な面にまで張り巡らされたアンテナによって集められたマルチな知識に基づくものだったともいえる。
本書は、そんな著者のアンテナの広さ、情報収集能力の高さ、巧みさをあらわしている一冊ともいえる。
無名人、すなわち名もなき市井の人々がふと語った言葉の中から、「名言」といえるような言葉を抜き書き的に集めたもので、あらためて、永六輔というマルチな才能の持ち主の着眼点のよさ、分析力の鋭さといったものに感心させられる。
その中のいくつかを:
「下町の人情ってよく言うけれど、人情を持ち出すようじゃ、その町もおしまいです。人情ぐらい頼りないものはありません」 「ある人の三回忌に行ってきたの。葬式には千人からの人が集まったのに、三回忌になったら十人もいないのよ。忘れられちゃうのよ。さみしいものねぇ。」 「選挙違反しても当選すればどうにかなるんだよ。違反しても勝てばいいってことはさ、これはプロレスだな。」 「自衛隊の装備も怖いけれど、デパートの食料品売り場の品数も怖くなるねぇ。何も、世界中の物を喰わなくてもいいと思うけどねぇ。」
（90年5月発行）