勝ち過ぎた監督 中村計 集英社
「優勝旗（大旗）は白河の関を越えない」というのが高校野球の「常識」といわれてきた。
北海道、東北は冬の間雪で閉ざされるためにその間、実践的なグラウンドでの練習ができないからというのが理由とされてきたし、実際、雪国の高校は一回戦ですら中々勝てず、「雪国の高校は甲子園で勝てない」ということもこれまた甲子園の「常識」などといわれていた。
しかし、そんな「常識」をいとも簡単に打ち破った高校があった。それが、本書の主人公である香田誉士史が率いた駒大苫小牧高校である。
香田は04年、北海道初の甲子園制覇を成し遂げ、翌年には57年ぶりとなる夏甲子園の２連覇を果たし、さらにはその翌年早稲田実業との間で、いまや伝説となった決勝再試合にまで持ち込み、3連覇にぎりぎりまで近づいたのだった。その時、香田はわずか35歳という若さだったのだ。
本書の前半はもちろん、全国的に全く無名といってよい雪国の高校をこれだけの偉業に導くまでの香田自身の軌跡であり、関係者たちの軌跡であるが、本書の読みどころはむしろそういった歴史的な偉業を成し遂げた後の、香田の苦難の日々にこそあるといってよい。
この優勝の大フィーバーが、思いもよらぬ大きな波紋となり、又、夏連覇を果たした直後におきた野球部内での暴力、飲酒事件の連鎖や学校関係者とのおもいもよらぬ意思疎通の齟齬といった問題により、香田の心はダメージをうけていく。
結局、三連覇がその直前で夢に終わった翌年、香田はチームから追われる形で満身創痍のまま高校をさっていく。
そこには、まさに本書のタイトルがいう通り「勝ち過ぎた監督」であるからこそ味わうことになった苦悩と悲劇がある。
スポーツ紙記者であり長く高校野球そして駒大苫小牧野球部、そして香田を追い続けてきた著者の筆は、その情熱故にと思うが過剰なほどに走っていて、読んでいていささかつかれるところもあるが、もはや「高校教育の一環」などという生易しい段階ではなく、一大産業とさえいえるほどに成長してしまった高校野球を語るには、これぐらいのヴォリュームが不可欠なのかもしれない。
（16年8月発行）