ヒト 島泰三 中公新書
半世紀以上に亘って世界のサルの研究観察をおこなってきた著者による大型類人猿から現代に生きる我々日本人までの類人猿史である。
広島・長崎の原爆による破壊、そして大量殺りくという出来事にショックを受けたことに端を発している著者研究者人生は、人類という類人猿がなぜ破滅的ともいえるような自然の破壊、あるいは自らの種の自殺行為ともいえるお互いの殺戮に走ってしまうのか、そしてこのままでいけば人類と地球に未来があるのか、という疑問に発したものであるという。
そのような、個人的な疑問から発した著者の研究者としての姿勢は、決して学会の「常識」といったものにとらわれない、言い方を変えれば「かなり大胆な」仮説をも許容していくものであり、「トンデモ科学」とでもいわれかねないものなのかもしれないが、本書で述べられている広範な地球史、生物史の抱負な知見から導きだされる実に詳細で遠大な類人猿史は、今までの常識とか知見といわれたものを吹き飛ばしてしまうほどの説得力をもっている。
我々人類がなぜハダカのサルといわれるような一般的にかんがえれば生物として生存に適さない姿をしていながら、これだけの繁栄をできる生物になることができたのか、あるいは一体、いつ頃からどのような理由によってことばをもつようになったのか、といった話題についても、著者の見解は、あいまいさのない大胆なものであり、「これらの説は学会では認められているのだろうか」などと却って心配になってしまうが、著者はそういった遠慮はほとんどせずにズバズバと断言調で語っておりある意味小気味がよい。
日本人のルーツが韓国人や中国人とは違うといった説なども、どの程度、認められているのだろうか―――等々、本書から更に人類史をもう一度色々と読み漁ってみたくなった。
（16年8月発行）