宗教を物語でほどく 島薗進 NHK出版
人以外の生き物で「宗教」をもっている生き物はいないのはなぜだろうか。
宗教のようにこれまた人だけの営みである「物語」の中にある宗教性について説く本書において、著者はその物語を4つのテーマすなわち「死」「弱さ」「悪」「苦難」を通して語っているが、まさに人だけが生きて行く中でこの「死」「弱さ」「悪」「苦難」を感じ、怖れ、そして考えるからこそその先に「宗教」というものを考え出したのではないかと思えば、この日本有数の宗教学者である著者の分析には納得がいく。
著者自身、文学にも造詣が深くまた「物語」が好きだというだけあって、4つのテーマごとに3乃至4つの物語を取り上げ、それらの物語に描かれている宗教性を解釈していくのだが、選ばれた物語のジャンル、時代もかなり多岐にわたることもあって、本書の与える重厚感は中々のものだ。
まず取り上げられているアンデルセン『人魚姫』も、宗教性という点ばかりではなく作者アンデルセンの人生観といったところまで分析されており、アンデルセンという人の息遣いのようなものさえかじることができるし、「弱さ」の章でとりあげられる、西加奈子の「きりこについて」、「悪」の章の倉田百三「出家とその弟子」、「苦難」の章で語られる深沢七郎「楢山節考」なども、いずれも著者によるそれらの物語から読み解くそれぞれの作者の宗教性には、「なるほど」と思わせるものがあり、いずれも又読み返してみたくなった。
（16年8月発行）