シャープ崩壊 日本経済新聞編 日本経済新聞社
「大企業となれば一代や2代ダメ社長が続いてもどうにか保つものだが、三代続いたら終わりだ」と言われる。
ダメ社長と言っても経営は結果論という部分も多いから運悪く「失敗経営者」の烙印を押される者も多いけれど、消えていった大企業を見ていると、確かにその多くが「ダメ社長が三代あるいはそれ以上、続いた企業」と言えるのは間違いない。（あくまでも、「潰れた企業」という目で、その企業の歴史を結果論的にみているからそう感じるのかもしれないが）
ちょっと異色の電機メーカー的な存在であったシャープが、大手家電メーカーをも凌駕するほどの勢いで急成長を遂げたのは、我が家がブラウン管テレビから液晶テレビに変えた2000年代後半だったように思うが、あの頃、思い切った液晶への投資切り替えを行ったのがシャープであり、その液晶画面の性能の良さは確かに他のメーカーの追随を許さないほどであったことを思い出す。
「世界の亀山モデル」ともてはやされ、思い切った超大型液晶工場を堺に建設するなど、まさに日の出の勢いであったシャープが、あれからわずか数年で日本の電機メーカーの中で初めて外国資本傘下の企業になり下がり消えて行くなどと誰が想像できただろうか。
日本経済新聞がこの間のシャープ崩壊の歴史を丹念に追い分析した結果がこの一冊にまとめられており、まさにあの平家の興隆と没落を描いた「平家物語」のような悲哀漂う一冊ともいえる。
この中で述べられているシャープ崩壊の原因の中でもその最大のものが、冒頭にも述べた「三代続いたダメ社長」ということではなかっただろうか。
液晶技術陣をリードし、エリートであることを自負していた片山幹夫5代目社長による堺工場への巨大投資が崩壊の直接の原因とはいえるが、その片山を巡る片山を社長に推した、シャープ中興の祖的存在であった4代目町田勝彦、片山を排除するために町田が送り込んだイエスマンの6代目社長、更にはそれに続く7代目といった新旧入り乱れた経営陣の責任のなすりつけ合いと対立こそが、本来一丸となって難局に対処すべきシャープという企業を崩壊に突き進ませた原因であるようだ。
液晶が引っ張りだこであった時に、ソニーをはじめとする大手メーカーへの納入契約を自社ブランド優先の為に不義理を重ねるなどの傲慢な態度が、一転して経営が苦しくなった時期に、だれも味方がいなくなる―――という形でしっぺ返しとして返ってきたこと等々、まさに「経営破たんに到るあらゆる要因」が詰まったようなこのシャープの歴史は、他山の石として、経営のみならず人生の指針にもなるかもしれない。
数千人のリストラによって従業員とその家族に大きな苦難を強いることになったこういった経営者たちが、現役時代には億単位の報酬を得ていたうえに、シャープ崩壊の最終期には泥船からいち早く脱出し、町田は積水ハウスや塩野義製薬の役員として、又、片山は日本電産の取締役副会長に就任して高額報酬を得ている―――というあまりにもドロドロとした人間臭さが、妙な「もののあはれ」を誘う。
（16年2月発行）