折々の民俗学 常光徹 河出書房新社
日本における民俗学といえば、直ぐに思い浮かぶのが柳田国男と宮本常一だが、この二人を読み比べると民俗学」とは何か？という定義が全くできない！と思ってしまうのはなぜだろうか。
それほどにこの二人の「民俗学」は違うし、その他の「民俗学者」の著作をみても、それぞれが余りに異質であり、果たしてこの「学問」には、「こういうことを研究する学問だ」と言えるほどはっきりした定義を定めることなどできないのではないか？と思えてしまうのだ。
まあ、それほどに民俗学がカバーする範囲が広い！ということでもあるのだろうが、そうなると「民俗学」というのは本当に「学問」なのだろうか？とすら思はなくはない。（決して、民俗学をけなす意味ではないが）
そういう迷いを生じさせるほどに、民俗学は実にその範疇が広く、なんだか日常のよもやま話やら、うんちくを傾け合っているだけではないかと思えるところもあるが、それだけに「学問」と言われる中では抜群の「面白さ」をもった分野であることも事実だ。
本書もタイトルに「民俗学」とついてはいるし、著者も民俗学者ではあるのだが、はたしてこれが民族学なのか、はたまた個人の身辺雑記随筆なのか戸惑いを感じさせるものではあるが、その面白さにおいては並のエッセーなどに比べれば抜群だ。
盛り場の客引きから「お兄さん」と呼ばれずに「社長」と呼ばれるようになるのは、何歳からだろう？ 果たしてこんな疑問が民俗学研究になり得るのだろうかと思うと同時に、「なるほど、こういう人間社会における素朴な疑問こそが民俗学なのかもしれない」と思わせる著者の筆致は実に洒落ているともいえる。
著者の郷里、高知の新聞に連載された随筆集だということだが、タイトルに「民俗学」が使われていることにも、妙に納得がいった。
（16年7月発行）