ニュートリノ 多田将 イースト新書
我々の体を一秒間に約600兆個のニュートリノが通過している―――と聞けばこの世の中はまさにニュートリノの海のようなものだと思ってしまうけれど、我々がそんな膨大な数のニュートリノが身体を突き抜けているということを感じることはない。
その理由は、ニュートリノが余りにも小さいからだ。その小ささを例えるならば太陽と地球の距離(1億5千万キロ)の間に赤ちゃんのうぶ毛が一本あるような物だからである。
こんな想像すらできないニュートリノの世界に対する興味は尽きないけれど、こういった極小の世界、すなわち量子世界での現象が、我々が生きていて感知している世界の現象（ふるまい）と余りに違い過ぎるだけに、いかに説明を受けたとしてもそれを理解し、受け入れることには常に困難が伴う。
そんなニュートリノの世界だけに、本書で一般人にも分かり易いように様々な比喩を交えて解説してもらうと、なんだか一瞬でも分かったような気分になれるのは何ともうれしい限りだ。
本書で解説されているのはニュートリノとは何かに始まって「反物質」について、そして先の梶田氏のノーベル物理学賞受賞の対称となった「ニュートリノ振動」についての解説まで、まさに現在の量子論の最先端の理論に到るものであり、更には、現在スーパーカミオカンデで研究されている、粒子と反粒子の対称性のズレ（CP対称性の乱れ）をニュートリノによって確認しようという試み、すなわち、我々のいるこの世界の成り立ちの根本についての探求についても詳しく述べられているのだから、新書一冊であるにもかかわらず、大変なお得感のある一冊と言える。
（16年7月発行）