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おい癌め酌みかはそうぜ秋の酒 江國滋 新潮社
父が癌で闘病生活を送っていたいまから16年ほど前に、本書を一度、手にとったことがある。
落語などの演芸評論や俳句に関する著作でユニークな活動をしていた著者の癌闘病記であったが、数ページを読んでみて亡くなった父の闘病時に語っていたことや、その日々を余りにもリアルに思いださせるほどの迫真性に、とても最後まで読めない、とすぐに止めてしまった1冊だった。
ただ俳句を愛し、酒を愛し、家族や友を大切にしていたといわれる著者の辞世の句である本書のタイトルにもなった句の印象は強く記憶に刻まれている。
あれから16年経ち、ひょんな思いから再び手にとった本書だが、父の人生と、その闘病の様子がオーバーラップするばかりではなく、いつか自分も経験するかもしれない癌とその闘病、そして何よりも死が（間違いなく16年前よりも）より近づいていることを思うと、再び読み進めるのが辛いような気がした。
自ら体調の不良を感じながらも、そこはかとない恐怖から避けていた検査を家族などからも再三勧められて軽い気持ちで受けた癌検査で食道の癌が発見されてすぐに入院、その後手術、再手術という治療を経ながらも、最悪の「再発」「転移」という経緯をへてわずか半年後に癌の痛みの中で死を迎えた著者が、癌の告知を受けた当日から死の数日前まで克明につづった闘病記が本書だが、著者が火付け役ともなった「生活句」である療養句を読み続け、こうなったら闘病句の金字塔を打ち立てる」という意気込みで綴り続けた、その文筆者としての凄まじい執念には、感嘆させられる。
その闘病の様子は、病人であるだけに時には不安や恐怖から、医師やナースに対する不満も述べられ、心配して見舞いに訪れる家族や友人たちに対する感謝ばかりではない諸々の感情も赤裸々に描かれていて、読む者が自分自身を著者に置き換えて身につまされるような余韻のある物になっている。
(00年10月発行)