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命がけで南極に住んでみた G・ウォーカー 柏書房
南極大陸は、どこの国にも属していない大陸である。その余りに過酷な環境と、国際協定によって学術研究以外の滞在が極度に制限されていることもあって、夏季でもわずか3000人、厳冬期は1000人しか人が住んでいない大陸だ。（夏季に島しょ部などに約3万人の観光客が訪問してはいるが）
厳冬期、マイナス70度になることすらあるこの地に、滞在した経験を持つ著者によるこの未知の大陸紹介が本書だ。
日本語タイトルが「命がけで南極に住んでみた」とセンセーショナルなものになっているが、原著のタイトルが「南極」であることから分かる通り、著者が南極において活躍する科学者たちの研究の様子をレポートしたものであって、「南極大陸とそこで研究を続ける人々」といった（それはそれで、大いに興味のある事柄ではあるが）内容であることを考えれば「命がけで――」というタイトルに騙されて（？）冒険物を期待した読者は少しがっかりするかもしれない。
厳冬期の基地での長期滞在がいかに通常世界と切り離された生活であるのか（皆が同じような特殊な服を着なければならず、個室はなく全員がワンルームで暮らし、同じものを食べ、シャワーは一人1日2分間だけといった―――）
厳冬期は、他の大陸への移動や、他の地域からの救援・補給もないといった状態で半年以上、まさに火星にでもいったかのような生活を送ることができるかと問われれば、よほどの物好きでなければ叶うまい。
しかし、南極がこの地球上においては又とない科学研究上の好条件を備えている分野も実に多いのも事実であり、アムンゼン、スコットの南極点到達競争の歴史や、多くの冒険家たちの軌跡などのエピソードも豊富な一冊であり、タイトルのインチキさを除けば、満足できる一冊である。
（13年9月発行）