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ときめくフレーズ、きらめくシネマ 戸田奈津子 双葉社
洋画を見に行ってスクリーンにその作品の字幕翻訳者として「戸田奈津子」と書かれているのを見た途端、なんだかほっとしてその映画が楽しめるような気になるのは、彼女の字幕担当作品の多くに大いに満足した経験があるからだ。
著者は洋画が大好きで字幕翻訳をやりたい一心でこの業界にはいったものの長くその大役を任せてはもらえず、本格的に字幕を任されるようになったのは彼女が43歳になった時に偶々、来日したコッポラの通訳をやったことで、コッポラから「地獄の黙示録」の字幕担当として名指しで推薦されたという幸運がきっかけだったという。
英語の短いスラングや汚い言葉の字幕として誤訳的ではあるがある意味で適格な字幕をつけることで有名であり、それが「適格」なのか「誤訳」なのかで議論を呼ぶことも多いけれど、少なくともその映画の雰囲気をよく伝えているという意味では、他の字幕作家のつまらない字幕に比べて評価したくなるのだが―――。
自分が英語に興味をもって一生懸命学んだのは、ビートルズの曲の歌詞の意味を理解し歌いたかったという動機によるものだったが、著者の場合は映画好きが嵩じて映画のセリフを理解したい！という動機によるものだったというが、本書はそんな彼女の字幕翻訳映画作品の中から彼女自身が気に入っている、洒落た、あるいは面白い言い回しを集めたもので、それぞれの映画を思い出すし、又、きわめて英語的表現を学ぶ意味でも面白い一冊である。
一見すると英語の勉強に役立つ一冊、といった感じもあるけれど、ここに挙げられたフレーズを実際に使うような場面に遭遇することはまずありえないとは思うが―――。
映画と英語、という両方のうんちくが広がることは間違いない。
（15年11月発行）