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ヒトはどこまで進化するのか E・O・ウィルソン 亜紀書房
ヒトは動物の一種ではあるが、同時に動物とは極めて異なった生物であることは明らかである。
では、一体ヒトと他の動物とを隔てるものは何なのかについての議論はこれまた研究者によって千差万別の意見があり、そのいずれもがうなずけるものばかりであるために、その結果として結局、ヒトと他の動物を隔てるものが何かを特定するのが極めて困難になってしまっているような気がしないではない。
本書は「社会生物学者」として著名な著者による「ヒトと動物の違いは何か」に就いてをテーマにした「随筆集」といってよいものであるが、大いにうなずける部分とともに、余りにも断定調の見解にいささか疑わしい理論であるかのように受け取れる部分も多く、いずれにせよ「ヒトとは何か」についての挑戦的見解として興味深く読める一冊だ。
巻末の解説は生物学者の長谷川真理子が行っているが、ドーキンス流の「進化生物論」的主張に特色のある彼女が、著者ウィルソン流の社会生物学に対しては比較的批判的な立場にあるだけに、この解説を先に読んでから本文に入った方が、却ってウィルソン流のいささか保守反動的にも思える社会生物学的立場の理解が進むと思う。
ヒトの「倫理的」と呼ばれる行動、例えば利己的な得失を捨てでも、利他的な行動に走ることがあるヒトの社会的生物の行動が、実は利他的な行動による個としての犠牲が結果的には集団の存続、すなわち種の継承という意味における個の利益につながっているからだ―――という著者の主張などは、ドーキンスの「利己的な遺伝子」論とそっくりではないのか？などということを思ったりもしたが―――。
何分にもかなり挑戦的、刺激的な一冊といえる。
（16年6月発行）