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元サルの物語 ジョナサン・マークス 青土社
人類進化の歴史を辿った結果「ヒトは元サルだった」というのがダーウィンの進化論の眼目であり、そのことを否定し「ヒトは神がその姿に似せて作った」といえば、その理論は非科学的かつ噴飯物だと嘲笑されるだろう。
しかし、本当に進化という生物学的なプロセスを通りさえすれば、元サルは人間になり得たのだろうか？ 著者は挑戦的に、「いや、そういう進化論だけでサルがヒトになった、という説こそ科学のウソだ！」と主張する。
いや、決してヒトは神が創ったというトンデモ話を押そうというのではない。著者は、ヒトが今日のヒトになった過程を、進化生物学だけで説明し、納得しようとすること自身、全く不十分であり、結果として「ウソ」になってしまうというのだ。
著者は我々が元サルから今日のヒトになったのは、生物学的な必然などというものではなく、例えば脳の発達を言語の発見という偶然的な成果につなげることができたこと、さらには言語による集団生活の維持（人間社会の形成）、あるいは、道具や家畜といった文化環境の継承と、それによって形作られた社会の規則作りとそれに対する適応、といったなものが、多層的に積み重なり複雑化したために漸くヒトになり得た―――という視点こそ最重要なのだという。
たとえば、現在の「貧富の差」の原因についても、準生物学的な弱肉強食だけでは答えられない「それでは富をもつものが強であり、貧者が弱である以上、貧富の差は必然だとして肯定するしかなくなる」し、それでは貧富の格差は社会的な不正義であるとする人間社会の「道徳的な良識」はどこからきたのかという説明には全くならない――というのだ。
後半部分になるとかなりラディカルな社会論になってきて、ちょっとついていきにくい部分が多いけれど、「進化だけではヒトになった過程を説明できない」という主張は、大いに納得できた。
（16年11月発行）