タカさんの読書日記索引に戻る
経済成長神話の終わり アンドリュー・サター 講談社
日本の少子高齢化は、当面止めようがないことは明らかだ。止めようがないというその事実は皆がうすうす感じていながら相変わらず「大変だ！」「どうにかしなければ！」と大騒ぎしているし、少子高齢化を阻止するためと称してどう考えても「ムダ」としか思えない施策に大量の予算が注ぎ込まれている。（ムダであるということも皆が分かっているにもかかわらず）
でも、一体なぜ少子高齢化が問題なのか？と問えば、「人口の減少が生産力減につながり、成長率の低下が個人所得の低下を招くから」だとか「経済成長が止まれば日本の経済規模の縮小を招き、日本の世界に於けるプレゼンスの低下を招くから」等々、一見納得できそうな理由が上がるが、それでは人口減少が個人収入の低下を招く」という話にしても、その論理が成り立たないことは、人口という分母と、国民総生産という分子がともに減るならば別に一人当たりの所得の減少につながる訳ではないということを考え、北欧やシンガポールのような「豊かな国」が、日本よりはるかに少ない人口なのに、日本より一人当たり所得が高く、国民満足度も高いことや、日本の10倍以上の人口を持つ中国やインドが、個人所得においてはるかに日本より貧しい理由を説明する理論ではないことからもよく分かるはずなのに。
国際弁護士であり立教大学教授として日本在住の著者による日本に於ける「経済成長神話」「生産性神話」に対する指摘には、本書出版当時から、そういった神話を信じ込んでいた多くの日本人読者から「目から鱗だ」「まさに、コロンブスの卵だ！」といった賛辞が寄せられてはいるものの、アベノミクスの経済成長目標にせよ、AI導入に対する熱気にせよ、未だに一般的には受け入れられておらず、日本社会が盲目的に「成長神話」に囚われている現実には嘆息せざるを得ない。
「労働生産性をあげれば豊かになる」と信じて、AI導入を格段に進めればいままでそういう仕事をしていた人間はいらなくなり職を失う（AI導入が進めば、弁護士や作家、建築家といった高度知能労働と言われる分野の仕事さえ人間ではなくAIが行うようになるかもしれない）だろうが、全体としての「労働生産性」はあがり、ひょっとしたら日本のGDPも上昇するかもしれないが―――人間はどこから収入を得て、どうやって暮らしていくのだろうか。
この一事をみても「生産性の向上」がかならずしも「個人の豊かさ」につながらないことは火を見るよりも明らかだ。
最終章で日本はそれではどうすべきかの提言が行われているが、この部分は半分納得するが、理想論過ぎて実現性がないように思える部分が半分ある。
ただ、本書を通じて我々は「経済成長神話」から脱却すべきだということは確信できる。
（12年3月発行）