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九十歳。何がめでたい 佐藤愛子 小学館
佐藤愛子は亡くなった母とほぼ同い年、彼女のエッセーを読むと、母がよく言っていた「大正生まれの女はしっかりしているのよ！」を思い出す。
憤怒の作家などというニックネームを付けられたことのある大正女の彼女も御年90歳を超えて回りから寄せられる「おめでとうございます」といったありきたりな言葉に、年をとれば体の方々にガタが来るし、おもいのままにならぬことだらけだというのに「なにがめでたいだ！」と愚痴るし、世の中に溢れる理不尽（携帯ばかりいじっている内に人間がどんどんバカになっていくこととか）や、訳知り顔で言われる笑止千万な道徳論に逆切れする等々、がっつんと骨の入った世の中に対する叱責の言葉は、まさにしっかりしている大正女の面目躍如としていて、なんだか耳に心地よく響く。
骨が通った憤激も90過ぎの老人らしくその対象が新聞に載る身の上相談に対する感想等といったその辺のおばさんの意見といったものにまで及ぶところも、しっかり者の大正女の「可愛さ」のようにも感じられるのは、彼女の代表作「戦いすんで日が暮れて」に描かれている夫の借金に振り回されながらも強くその状況を乗り切ったという彼女の「しっかりした」主婦としての経験に裏打ちされたものだと思うと、通り一遍のボヤキとは桁違いの人生訓が含まれているようにも思える。
（16年8月発行）