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ここまで変わった日本史教科書 高橋英樹他 吉川弘文館
661年、百済の援軍要請をうけたヤマト朝廷は白村江で唐・高句麗連合軍と戦いボロ負けしてほうほうの体で引き揚げたが、勢いに乗った唐・高句麗に攻め込まれるのではないかという非常な危機的状況に追い込まれ、国家としての正統性の樹立が喫緊の課題となっていた。
そこで、急遽編纂されたのが「日本書紀」であり、ヤマト政権がいかに歴史ある正統な政権であるかを示すためにいわば「でっち上げ」の日本史を作り、これにもっともらしく記載したともいわれている。
従って、日本書紀編纂時の天皇、第40代とされる天武天皇以前の天皇の実在は確たる証拠や資料があるものではなく、特に初代神武天皇の後、第26代辺りまでの天皇はいわば創作によるものだともいわれている。
例えば第16代とされる仁徳天皇の実在はかなり疑わしい部分もあり、宮内庁が「仁徳天皇陵」としているあの世界一大きいといわれる墳墓も、歴史研究の立場からすればそれを史実としては認める根拠に乏しく、それゆえに「大仙古墳」と呼んでいる。
戦前そして戦後しばらくは歴史の教科書には「仁徳天皇陵」として記載されていたこの古墳も、今は教科書には「大仙古墳」として掲載されており、子どもたちに「仁徳天皇陵」等と言おうものなら「おじいちゃん、間違っている！」ととがめられるし、テストもバツになるだろう―――というのはそういった事情があるからだ。
この例をはじめ、「歴史というものは過去のことなのだから、教科書の記載は、未来永劫変わらない」という考えを「歴史学」という常に新しい資料の発見や、研究で書き換えられる学問からみれば成り立たない話であり、本書にあるように、最近の教科書に記載されている事項の多くが、自分達が学んだ頃に比べると驚くほどかきかえられている理由も納得がいくだろう。
本書は、ここ30年の間に、日本史教科書がどのように変わってきたかを、文部省の現場で教科書調査に携わってきた現職・前職の調査官が項目毎に簡潔に解説してくれるもので、まさに「歴史蘊蓄物」としてはドンピシャリの読み物だ。
上記でも触れたが、かつては「大和朝廷」と呼ばれていた政権が「ヤマト政権」になり、「聖徳太子」が「厩戸皇子」となっている等々、興味は尽きない。
（16年9月発行）