タカさんの読書日記索引に戻る
生命、エネルギー、進化 ニック・レーン みすず書房
かつて人々が「神の御業」のたった一言で蓋をしてしまった生命に関する様々な謎が、ダーウィンの進化論やDNA二重螺旋の発見をはじめとして次々と解明されている―――とは思うものの、でも「本当にこれらの説が絶対的に正しいのだろうか？」という疑いというか疑心暗鬼を拭い去ることができないのは、そもそも「生命」というものが一体どうやって誕生したのだろうか？という、再現もできなければ証明することさえ不可能な36億年とも40億年ともいわれる遠い昔に起きたことだからだが、まさに生命についての根本的な問題に対する問が解明されていないからだ。
古くはオパーリンのコアセルベート説をはじめ数々の説がたてられてきたが、地球上の生命誕生以来36億年と言われる途方もない時間も前に、一体何がおきたらば、現在のように生命の溢れる世界が現出するのか―――いずれの説をとっても納得できるような物ではないように思えて仕方がないのだ。
本書を手に取ったのは昨年末だったが、生命の起源について今までの説とはかなり異なる説をたて、しかも（少なくとも自分にとっては）説得力のある著者の説には引き込まれつつも、かなり難解であるだけに結局読了までに4カ月近くを要してしまった。
読了した満足感はあるもののそれでも尚、生命の起源についての納得が十分にえられた感じがしないのは残念ではあるが―――。
本書で著者がまず説くのは、生命の起源そのものと、その後に起きた真核生物の出現のようなまさにマジックか、奇跡のような出来事をいずれもエネルギー傾斜という観点で説き明かせるというのだ。
生命の起源や、真核生物の登場ばかりではない、著者によれば、生命そのものの活動の原動力となっているのもすべて、「プロトンの移動エネルギー」であると言うのだ―――。
本書の肝ともいえるこの部分だけをとっても、では単なるプロトンの移動だけなら、この宇宙にはありふれているであろうに、なぜ地球上においてのみそのプロトンの移動の複雑なメカニズムが「生命」という形になったのか―――となると―――やはり分からなくなってしまうのだが―――。
我々人類を含むあらゆる真核生物すべてが、たった一つの共通祖先から分岐し複雑化してきたのであり、その現生命のたった一つの共通祖先は、一個の細菌が一個の古細菌のなかにはいりこんで内部共生をおこした結果であり、そんなまさに奇跡中の奇跡といえる出来事は地球上で35億年にたった一度だけ、起こったことなのだ―――という著者の説明は、納得がいくというか、謎を益々深める結果で終わってしまったようにも思えて、生命科学への益々の興味にかられる――――。
（16年9月発行）