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応仁の乱 呉座勇一 中公新書
京都に住む人が「先の戦争」と言う場合、太平洋戦争を指しているのではなく「応仁の乱」のことだといわれているが、室町幕府が滅びてそれに続く戦乱の世になったこの戦いは11年間戦われ京都の町は灰燼に帰してしまったことから、その年号を覚える際にも「人の世虚しい（1467年）応仁の乱」と覚えたものだったし、灰燼に帰した京の街を詠った「汝（なれ）や知る 都は
野辺の夕ひばり、上がるを見ても落つるなみだは」（飯尾彦六左衛門尉）という歌も名歌として良く知られている。
しかし、それでは一体、応仁の乱の原因は何であって、その決着はどうついたのか？となると、今も多くの歴史学者の間でもあいまいなままで、「何かのきっかけで起きた些細ないさかいが、多くの勢力や人々の思惑が入り乱れるなかで、ごちゃごちゃな戦乱にまで広がり、11年間もの大乱となって京の街のみならず全国的な破壊を招いてしまい、結果的に社会を大きく変えてしまったが、その決着はあやふやなままでおわってしまったようだ」といったところが、今の歴史教科書に記載されている要約といったところだろうか。
そんな「応仁の乱」は、歴史通史的に見れば大事件であるにも関わらず、戦国や幕末などの大変換点の歴史に比べ、「人気の無い」事件であり、大河ドラマが応仁の乱を扱った「花燃ゆ」（1985）は、「平清盛」（2012）がその記録を破るまで長らく最低視聴率記録であったほどだが、やっぱり、決して華々しい逸話がある訳でもなく、将軍の後継者争いといういわば身内の相続争議に他の勢力がちょっかいを出して―――という「醜さ」のイメージが付きまとうからではないだろうか。
そんな応仁の乱だけに、歴史好きではあるもののあまり興味はなかったのだが、本書を手にとってみて意外と面白い――とは言わないが―――興味深い事件なのだなぁ〜と著者の歴史学者的な詳細な「研究」に感心させられた。
というのも、本書に書かれている応仁の乱の経緯は、現代人の我々の社会でも変わらない人間の私利私欲の激突だとか、「俺の顔を潰されて、黙っている訳にはいかない」といった見栄や虚栄といったまさに人間らしい（といいつつも、実にバカバカしい）要素が満ち溢れているからこそ面白いともいえる。
これは、ひとえに著者の歴史を語る筆致が、研究書的でありつつも、ストーリーテラーとしての物である為だと思われる。
応仁の乱が結果としてそれに続く戦国時代の戦いの入口になったという歴史的事実と、当事者たちの欲望と思惑違いが積み重なっそれぞれにどんどん混迷を深めている、日本の政治情勢や、世界情勢を見た時、応仁の乱から学ぶべき教訓は、我々にこそ今必要なのではないか――とすら思えるのだ。
（16年10月発行）