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紙の城 本条雅人 講談社
堂場瞬一の「社長室の冬」同様に、紙の新聞とネットによるニュース配信という新しいトレンドの中で揺れ動く全国紙を発行する新聞社を舞台にして企業小説だ。
作者は元産経新聞記者であり、新聞発行の現場経験を持つ人だけに、この業界の内実に詳しく、内幕物企業小説としても中々面白い。
紙の新聞発行部数がどんどん減少し、無料で読めるネットニュースが溢れる昨今、今すぐではなくても、10年後には紙の新聞はなくなるのでは？といった議論が盛んに行われるようになっている。
ネットでは数秒でアップされる記事が紙では印刷、輸送に何時間もかかる、こんなことがいつまでも続く訳がない！と考えれば紙の新聞が10年後になくなっていても確かに可笑しくはないのだが―――例えば紙の新聞にある一覧性だとか、長期記録として残るというメリット（ネット記事の記録は10年も20年も残るということがない）や、読者が気にいらない意見や論調は「読まないで済ませる」ことの出来る紙の新聞にくらべ、一方的に押し付けられれば、好き嫌いにかかわらず「読まされてしまう」ネット新聞とでは、読者の側に自由な選択が生まれるメリットのある紙の新聞の方に分があるようにも思えるが―――。
ネット企業による新聞社の買収の正否は？といった筋立ての中に、新聞社の記者たちを含めた社内人間模様、そして買収する側のIT企業や、そのIT企業のスポンサー達の思惑等々といった企業小説らしい筋立てと、紙の新聞の旧態依然たる上から目線の問題点、未来の新聞像といった元新聞記者らしい問題意識をちりばめてあり娯楽小説としてよくできた1冊だ。
（16年10月発行）