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外来種のウソ・ホントを科学する ケン・トムソン 築地書館
子供の頃、ザリガニ釣りをして遊んだものだったが、あのザリガニとは真っ赤なアメリカザリガニであった。
田に住むザリガニはイネの根を切り、又、穴を掘って畦を壊すことなどからもともと稲作農家には嫌われる生物であったが、「アメリカ」とかつての敵性国家の名前のついた有害な生物という訳だから、田んぼの周りでこのザリガニを釣る子供たちは農家には歓迎されていたようにも記憶する。
アメリカザリガニは、昭和のはじめに食用のウシガエルのエサ用として移入された20匹が養殖池から逃げ出すなどして全国的に生息域を拡げたものであってこの嫌われ者をこれだけの繁栄に導いてしまったのは、もとはといえば人間であることを考えると、アメリカザリガニもちょっと気の毒でもある、
一般に「外来種生物」は「悪」の代名詞で目の敵にされるが、アメリカザリガニの例のようにほとんどの「外来種」は人間が自分達の都合で持ちこんだ物であるという点を考えれば、彼等がどこでも駆除の対称とされ、「在来種」といわれさえすれば一方的に保護の対称になるのも随分勝手な話という気がしないではない。
そもそも、ある時点を基準としてその時点で生息していた生物を「在来種」、その時点以降に生息域を拡げた生物を「外来種」として分類し、あたかも「在来種」は守るべき「善」、「外来種」は駆逐すべき「悪」であるという決めつけ自身オカシイと著者はいう。
生物は、気候などの自然条件に合わせて長い目でみれば、生息域を変えて行くものであって、例えば今、中東などを生息域としているラクダはその原種は北アメリカであり、現在その地で栄えているからといってその生物がその地を原産地である例などむしろ稀であるという。
このような事例を挙げながら著者は今、「環境問題」の主要テーマに挙げられている「生物多様性」保持の為の「外来種根絶」運動は、生物の強い生命力に対する不遜な人類の無駄な挑戦であり、却って生命本来が持つ環境と調和して行こうとする生命力に対する蟷螂之斧に過ぎないという。
冒頭に掲げられた「何が在来種で何が外来種か?」という問いかけに加え、外来種のもたらすマイナス面のみを殊更に騒ぎ立て、メリット面についてはそれがいかに有益なものであっても無視するいわゆる「環境屋」たちに「外来種の侵入によって間違いなく損失があるのか？」と迫る著者の主張には、目から鱗的に大いに考えさせられる。
（17年3月発行）