タカさんの読書日記索引に戻る
あの頃、ぼくらはアホでした 東野圭吾 集英社
今や第一線の売れっ子作家である著者は、1958年大阪で生まれ育ったが、そんな彼が40才の頃、自らの小学生時代、そして中学生、高校生、大学生時代の思い出を描いた一冊だが、必ずしも成績が良い訳ではない平凡な生徒であった自分の青春を思い出して「アホやったなぁ〜」といいつつ過ぎし日々を懐かしむ内容は、読者も自分自身の少年時代、青年時代の思い出と重ね合わせてまるで我が事のように楽しく読めるのではないだろうか。
父兄の参観日には見栄えのよい献立だった学校給食が、その翌日からは姉たちから教えられた評判通り物凄く不味くてミルクなどは臭くて飲めなかったこととか、昭和の40年代頃までの学校給食の経験のある世代にとっては実に懐かしい思い出だ。（最近の学校給食は子どもたちも楽しみにするほど美味いのだとか）
中学、高校と底辺校で底辺に近い成績であった著者の今思い出にしても「アホやったなぁ〜」という類の思い出ばなしは、よくある「貧乏噺」がある種の「貧乏自慢」になってしまうのと同じように、どこか「アホ自慢」的なユーモアにあふれている。
高校卒業後には一年間の浪人生活を経て授業料が安いからと、公立大学の電気工学科に入学したが、大学では勉学の思い出ではなく、カッコいいのではとの思い込みから入ったアーチェリー部での野蛮な風習が描かれているけれど、著者の大学に限らない、当時の大学の体育会系の部活なんて、どこもこの程度の野蛮さは当たり前だったのかもしれない。
本書がよくある青春思い出エッセーとちょっと違うところは、そんなありふれた、というかどちらかと言えば落ちこぼれ的な学生生活を送っていた著者が、どうして売れっ子の作家になったかの下りであろう。
小さい時から大の読書嫌いであった（曲がりなりにも）理系の著者は高2の時にふと手に取った小峰元『アルキメデスは手を汚さない』をなぜか通読してしまい、その後松本清張に魅入られ、自分も推理小説を書き始め、一旦は大学卒業後会社勤めをするものの、その後、紆余曲折あって今日に至るまでの経験がかかれており人の才能というものは色々な切掛けで花開くこともあるのだなぁ〜と思った。
（98年5月発行）