タカさんの読書日記索引に戻る
株式会社の終焉 水野和夫 ディスカバー21
コペルニクスがたった1.5冊のその著書によって地動説を唱え、それまでの世界観を支配していた天動説をひっくり返してしまったのと同じような歴史的パラダイムシフトが近代社会を形成している基礎となっている経済学、特に株式会社システムに基づく資本主義経済学にも必要だと説く著者の主張は、ピケティ―をはじめとする資本主義の行き詰まりを唱える学説ばやりの世の中では一聴に値するように思える。
特に、日本においては曲がりなりにも総合的な数値において「成長」が見られる経済状況にありながらも、ここ三十年余り個人の年間所得が下がり続けている―――という実情を、一体今までの経済学上、どう解釈すべきなのかの答えが見いだせないだけに、本書で著者が唱えるように株式会社組織に於ける現金配当至上主義からくる「成長」を是とする経済システムから離れ、「社会資本」の厚みを求める方向へとパラダイムシフトすべきだ！という説にはうなずけるものがある。
例えば、「消費」をその原動力においている従来型の経済システムでは、世界中の市場がある程度開発しつくされ、又世界中の需要の大部分が開拓されてしまっている今、もはやあらたな「消費」のフロンティアが見出しにくくなっていることは確かで、例えば、今日本の高齢者層にとってもはや欲しい物がなく、年金などによって、ある程度生活に満足できている状況では、これ以上の「消費」を促すには、病気にでもなって高額医療費でも支払ってもらうしかない！等といった、極めて矛盾する生活をしてもらうしかないではないか―――。
結局、何百年かの「経済成長」の結果、達成しえた世界は、禅でいうところの「知足」の世界に戻るべきだ！ということなのかもしれないし――――。
著者は、本書で次に来るべき経済パラダイムが何であるかを示している訳ではないことを、「だからどうだというのだ」と言っているけれど、この発言も好意的に受け取ることができるのは、確かに今の経済システムが根本のところで限界点に達しており、「コペルニクス的パラダイムシフトが必要だ！」ということを薄々と感じているからかもしれない。
（16年9月発行）