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こころはどう捉えられてきたか 田尻祐一郎 平凡社
副題に「江戸思想史散策」とあるように、時代が違うから我々とは随分考え方が違っていたであろう江戸時代の人々が本書のテーマである「こころ」とかあるいは「神」についてどう考えていたのか――といった問題について江戸時代の思想家（思索家）たちの考え方を辿った一冊である。
「江戸時代の思想」と言われれば本書の帯にも書かれているように、我々は「封建的な道徳や無味乾燥の教学で埋め尽くされているだろう」という先入観をもってしまうが、本書を読むと、実は我々が西洋哲学、あるいは西洋思想に感じる違和感とは比較にならないほど近いもので、その考え方は胸にストンとくるところがある。
やはり現代の我々も、江戸時代の先達も同じような歴史文化的背景の中で思考している訳で、西洋の人々の歴史文化的背景の中から思索されたものに比べれば、はるかになじみ易いし、理解も容易であると感じるのは当然なのかもしれないが。
内容は3章に別れ、それぞれの章のテーマ同士の関連性が必ずしも統一されておらず、3テーマの論考が独立してなされているようにも感じないではないが、通読してみると実は著者の研究分野が奥が深く、間口も広い分野であるために、文庫一冊ではとても納まりきらなかったのではないかとも思える。
中では第一章の、朱子学、陽明学からみた「こころ」について藤原惺窩や佐藤直方まといった儒学者の著作に基づいた研究は、今まで全く考えたこともなかったし（存在すら知らなかった）思想の大山脈であることを知った次第だ。
（16年3月発行）