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土偶のリアル 誉田亜希子 山川出版
世界史の中でも珍しいほどの長期間、1万数千年にわたって存続した縄文時代（今から1万5〜7千年前頃から2300年前頃まで）を知る術といえば、まだ日本には文字がなかった時代でもあるだけに、遺跡、遺物の中から我々日本人の祖先でもある彼等の暮らしぶりを類推していくしかない。
特に精神文化の面、彼等が何を畏敬し、何を欲し、何を望んでいたのか、あるいは彼等にとって「生きる」とは何であり、何を愛し、何を考えていたかは、遺物を見て類推していくしかない。
そういう意味では縄文を代表する遺物である土偶ほど、我々の縄文時代に対する想像力を駆り立ててくれるものはない。
本書は、その土偶を「歴史的遺物」として科学的側面からだけみるのではなく、まさに「土偶オタク」の著者が、イマジネーションを膨らませつつ（かといって科学的な側面を離れてという訳ではなく）語っているもので、フィクションも込めた血沸き肉躍る大歴史小説といった趣がある。
実は、岡本太郎が縄文時代の土器や土偶を絶賛するまで、これらの土器、土偶は決して今のように衆人の注目を集める存在ではなかったという。それで一人の文化庁調査官が海外での展示会を企画、外国人から「日本にはピカソが何人いるのか」と絶賛を得たことで、日本でも土偶が漸く見直されるようになり、遂には国宝第一号指定を得てから――爆発的に人気がでるようになった―――という経過をたどり、今日の土偶ブームに至ったのだという。
こういった土偶の、発見、発掘、修復、復元、蒐集、文化財指定といた物語と、著者自身の「オタク」的というか「土偶ラブ」の章から成る本書で、自分も再び、どこかの博物館に出かけてじっくりと土偶を眺め、古人がこれを作りながら何を考えていたのだろうか？と想像を膨らませてみたくなった。
（17年2月発行）