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植物はなぜ薬をつくるのか 斉藤和季 文芸春秋
現在地球上で繁栄しているほとんどの生物にとって必要不可欠な酸素は、今から34億年前に小さな生物が始めた光合成の産物であるが、この光合成を今でもおこなっているのが植物であり、我々人類を含む動物は皆、この植物が作った酸素の恩恵によって生命活動を維持しているのだから、植物のおかげで地球生命があるといっても過言ではない。
その生命史においてもたかだか400万年程度に過ぎない人間に比べればその3桁も違う歴史をもつ植物だからとても現代科学でさえ作れない様々な物質をつくることができるのは何の不思議もないのかもしれないが―――それにしてもなぜ植物は我々人間の「役にたつ」薬成分をつくることができるのだろうか―――本書のテーマである。
万能のように思える植物だが、最大の弱点は、自ら移動することができず、不適な環境からとか、外敵から逃れることができない―――ということだが、そういった弱点を自らの体内（植物内）で作られた物質によってカバーしようとして、長い進化の過程で作りだすようになった物質の一部が、偶々、人間にとって有効な薬として利用できるようになったのだという。
数億年という気の遠くなるような時間が、こんな不思議な進化を遂げさせるのだ――という壮大な話には、畏敬の念さえ抱く。
ポリフェノール、カテキン、フラボノイドなど、我々にはなじみ深い植物由来の成分がどのようにして植物によってつくられたのか、モルヒネやキニーネ、アスピリン、といった植物由来の特効薬がどのようにして得られ、なぜ人間の病を治すことができるのか―――等々、ゲノム科学、バイオテクノロジーの最新研究状況を含めて説いてくれる本書は、いささか専門的過ぎてとっつき難い部分もあるものの、植物の不思議、を我々にあらためて気付かせてくれるには十分だ。
（17年2月発行）